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「…じゃあ、自己紹介ね。僕の名前は風上侑李。君と…瑠璃と、同い年だよ」
入学式が終わり、もう皆が帰る頃、黒髪で水色の瞳の少年…もとい、侑李は、腕を後ろで組み、屋上の柵にもたれながら、笑顔で自己紹介を始めた。でも、光る“なにか”が零れ落ちているのを、私は見てしまった。でも、私は、気にしなかった。
風上侑李…なんだか、不思議な名前だ。
相手にだけ自己紹介させるのもあれなので、私も自己紹介をすることにした。
もう知ってるだろうから、意味ないだろうけど。
「知ってるだろうけど、一応…私の名前は氷上瑠璃。中学1年生で、組は2組」
そこまで話すつもりなんて、これっぽっちもなかったのに。
なんでか、全てを話してしまった。
…本当に、何者なんだろう。
記憶を探っても、わからない。
思い当たる人物が居ないのも、また不思議だった。
「2組なんだ。僕は1組。合同体育では一緒だね」
侑李は、嬉しそうに呟いた。
1組…隣のクラスだ。5組ある中では、案外近いらしい。
「…あれ、クラスは知らなかったんだ」
「そりゃあね。僕は全知全能の神じゃないし」
今日、廊下ですれ違ったっけ。そう思ったけど、様子から見て違うみたいだ。
もしそうだとしても、『もしかして』なんて言葉、普通は使わない。
私の名前も、知らないはずだから、クラスを知らないのもあたりまえか。
…そういえば…
「…キミは…侑李は、帰らなくていいの?」
今の時刻は、11時30分頃。11時45分頃に門が閉まるから、屋上から降りる時間を入れると大分危ない。初日から怒られてしまう。
私は、少し危機感を覚えた。
「あ、本当だ…僕は東門なんだけど、瑠璃は?」
「私は…西門」
どうやら、別々の道から帰るらしい。
侑李は、ションボリとした顔で落ち込んでいた。
少しだけ、本当に少しだけ……可愛いと思ってしまった。
相手は、知らない男の子なのに。
「そっか…じゃあ、続きはまた明日、屋上でね。明日も11時下校だから、11時10分頃に来てくれる?」
「…うん」
「ありがとう」
私達は、明日も話す約束をした。
またね、そう言葉を交わし、別々の門から帰って行った。
『ありがとう』
その言葉が、やけに耳に響いた。
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