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わたしは思わず、のけぞり椅子に座ったまま倒れそうになった。
手錠された両腕?いや正確には彼は両手で手錠を掴んでいた・・・
手錠が、手錠が・・・手錠が!
外れているじゃないか!これは何かの冗談か!
心臓の鼓動が狂ったように跳ね上がっていた。
彼は無表情で言った。
「先生、不思議ですね?手錠が外れましたね?おっと失礼・・・正確には
既に・・・は、ず、れ、て、いましたね」
わたしは立ち上がり、叫んだ。
「おい看守!君!彼を拘束しろ!」
看守が近づいてきた・・・慌てた様子もなく。
わたしは苛立ちとパニックを起こし叫んだ。
「どうなっているんだ!君!このでくのぼう・・・」
わたしは息をのんだ。
か、看守が・・・看守が無言で大きな手のひらを広げてわたしに見せたものは・・・
手錠の鍵だった・・・こいつが外したんだ、こいつだ!なんのための看守だ?
一体どうなっているんだ?誰が外せと命じた?
パニックでわたしは発作を起こしそうになっていた・・・看守とわたしは
しばらく見つめあった。
看守の目は患者A、彼と同じだった・・・魂のこもっていないあの目。
次の瞬間、看守はその太くてたくましい腕でわたしの首ねっこを掴み
二の腕で羽交い絞めにした。
わたしは馬鹿みたいに手足をばたつかせて、抵抗したが効果はなかった。
看守の太い二の腕がわたしの首に食い込み、意識がもうろうとしていた。
患者Aが立ち上がり、わたしに近づいてきた。
つまり・・・こういうことなのか?
わたしがこの半年間、患者Aを治療している間に彼は看守を洗脳した・・・
そして、この部屋に入った時から彼のゲームは始まっていたのだ。
視界がぼやけてきた・・・声が聞こえた。
患者Aの声だ。
「彼はすっかりわたしのファンだ」
やはり・・・体から力が抜けていった。
彼が私を見下ろしている。
患者A・・・この世には決して関わっていけない人間がいるのだ・・・人間?
いや、悪魔と呼ぶべきか?
彼の声が響き渡った。
「先生・・・どのように死にたい?早く?それとも・・・ゆっくり?」
薄れゆく意識のなかでわたしは自らの命の灯が消えるのを知った。
(終わり)
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