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――街路樹の枝に乗っかった雪が、落ちそうで落ちない。まだ明かりのついていないお店の屋根にセキレイがとまる。物欲しげな視線が注がれる先には、パンを片手に歩く、少女の姿があった。
★☆★☆
朝日に眩しく反射する、銀世界の町並みを眺めている。片手には昨日買ったウインナーパン。訳あって私は、いつもより早い時間に家を出発し、町の広場に来ていた。
ここまで来ておいて、まだ私の決心はついていない。でも、彼に会わなければ私はずっと"もやもや"したままだ。冷たい風が時折吹いてくる中でも、明け方の空を見るとなんだか暖かくて、大丈夫だと励まされている気すらしてくる。大丈夫か、私。
心の準備とか身なりの確認とか、あれこれしている内に、
「リーズ?」
後ろから馴染み深い人の声が聞こえてきた。振り向けば、やっぱり彼だ。
「早い、ね」
冬着のポケットに手を入れて、寒さに耐える彼が立っていた。私がいることが彼には予想外だっただろう、どこか決まり悪そうだ。
「……おはよう」
努めて呑気な声で、私は挨拶した。
「それ、朝ごはん?」
「うん。昨日買ったやつ」
いつもの私なら、ここで『ちょっと食べる?』なんて言って、彼をからかってやるのに。
今の私には、とても言えやしない。
そう。一週間前から私は、彼のせいで平常でいられなくなってしまっていた。
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