発見

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 私はそこで‘それ‘に出会った。違う言い方をするなら、発見した。  上野。私の好きな土地である。古い物の残る場所には、何か、がいる。などということを脳裏に描いていても貴女や他人に伝えることは困難である。考えていること、思い描いていることを自分以外の人間に伝えることには特殊な技能が必要とされる。いずれにせよ私とは縁のない世界の出来事だ。  話を戻そう。私は日曜日の晴れの日、曇り硝子から忍び込む陽気に導かれ地下鉄に乗っていた。電車に乗り込むと、複数の人が座席を共にしている。座席に体を預けても目の前に赤の他人が座っている。今、地震が起きれば私はあの人とともに逃げることになるのだろうか、我ながらどうでも良いことを常時考えている。目の前に座っていた彼女が降りた。どこへ行くのか、気になることは世界にあふれている。いつの間にか電車は動き出し、彼女ははるか彼方へと連れ去られていく。いや、この場合 おいていったというべきか。曇った声の放送が目的地へ到達したことを知らせた。袖をつかみながらホームへ降りる。周りでは家族連れも老夫婦もあらゆる他人が歩いている。そんな雑踏の中、一人で黙々と歩く。電光掲示板の森を抜けると木の森へ入る。思い返せばこの時点で引き返しておくべきだった。ここで引き返していれば私はあの「もふもふ」と出会うことはなかったのだから。  ギターを片手に世の中の矛盾を叫ぶ青年を横目に見ながら草のにおいを感じていた時である。世界とは偶然の産物である、と誰かが言っていた。私は、何故ここで右に曲がったのだろう。何故、上野に来たのだろう。何故、生きているのだろう。無駄に広いスケールになった私の自問自答は自分の中でもみ消した。  犬と猫を食べるもふもふ、概要はその肩書でいいと思う。私はそれを飼うことになった。
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