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「ねぇ、ご飯は逃げないからさ、まずは髪を乾かそうよ」
目の前では烏の行水で風呂を終え、褌一丁で用意した朝ご飯をかきこむ男。
彼が通った道には水溜まりができていた。
どうやったら、そんなびしょぬれで上がってこられるのやら。
わたしは食事を一時中断し、彼の背後に回る。
「ぴーちゃん、お母さんみたいだね~」
「いや、こんな世話のかかる子どもはごめんなんだけど」
なぜこんな雑な扱いなのに、髪は嫌味なほどに絹のように上質な髪触りなのだろう。
しかも、齢20を過ぎたのにこの甘え性。
そして、お腹が空いたらふらりとこうして現れる。
まるで、猫のようだ。
これが私の彼に対しての認識。
「あ、ひーちゃん。これって何の効果がある石なの?」
「それは”あくあまりん”といって癒しを与えてくれる石だよ」
「癒し?」
「この前、此処を訪問してきた参拝者の一人が身も心も衰えていたから、それを持って行って元気になってほしいなって思ってさ」
「へぇ。それ俺も行ってもいい?俺、今日非番で暇なんだよね」
「別にいいけど、まずはこれに着替えなさい!さっきの袴は干してるからね」
「はーい」
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