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深澄の言い方に郷谷が苦笑いを浮かべたのだが、深澄は一向にきにしないらしく角のデスクにむかって声をあげた。
「もぐさーん、ブリーフィングはじめるよー」
くぐもった声が聞こえて、一角だけが暗い、そのエリアから何かが立ち上がった。そこに何者かがいたことを、響子は立ち上がった姿を見て初めて知った。
一瞬、暗がりから現れたその人物が、人間ではない何かに見えたのは気のせいだろう。それは錯覚だろうが、響子は雪男だと思った。
大きいのだ、まず。背も、幅も。そしてなによりも、振り返った顔面が毛に覆われている。服も黒っぽいスウェットにオーバーオールである。
ゆっくりと部屋の中央に近づいてくる人物をみると、顔面を覆うものがヒゲと真っ黒いサングラスなのだとわかった。
「じゃあまあ、いるメンバーだけで紹介をしましょう。最初が肝心ですからね。じゃ、まずは櫻井さんを紹介しよう。櫻井響子さんは、今日付けでフラムに入社、うちに配属となりました。業務内容は、事務です。わかりやすく言うと、それぞれの顧客データとか、プロジェクトごとのデータ入力です。櫻井さん、自己紹介をお願いできますか」
郷谷がにっこりと三日月の目をみせた。
「あっ、はい。えと、櫻井響子といいます。今日からこちらでお仕事させていただくことになりました。よろしくお願いいたします」
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