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殿下が、口の端で笑った。
「売り上げのノルマがキツいのは飲食業界に限ったことじゃないが、春日和は各店舗を競わせている。
普通の競争なら、良い成績を出したものにご褒美がくるもんと思うけど、こいつらは悪い成績を出した店舗にペナルティーを課している。
ペナルティーを課せられた店舗の店長は、上位の店舗の手伝いにいくシステムだ。それも繁忙期に、無給で。ペナルティーだからな、残業代なんかでない。
店長は、繁忙期の自分の店舗をまず切り盛りしなきゃならないから、自分の店で仕事をする前と終わった後で手伝いにゆく。完全なるサービス残業で、休日は手伝いに当てられる。
この他にも、各店舗が独自のルールを設定できる決まりになっているから、残業代を計算するタイムシートを決まった時間に店長が勝手に押す、などの報告が上がっている。
つまり、何時に仕事を始めて何時に終わっているのかすら、定かじゃない。
この店で働く人間の実態は、誰かがSNSでぶちまけるか、労基に駆け込むか、首を吊るまで他にはわからない」
「……ひどい」
思わず、口をついて出てしまった。
ソファにかけたままで、殿下の口から流れ出た言葉は、胸の内側で得体の知れない気持ち悪さを呼び起こしていた。
前の職場を辞める前の、あの感覚だった。
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