第1章

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0 釣り銭をもらって財布にしまう。 店の自動ドアを抜ける前に、新聞の派手な見出しが目に入った。またどこかで何かが起きているらしい。 外気に触れた指先が途端に冷えるから、袖を引っ張ってポケットに入れた。 春はまだ遠い。 指の腹には乾いてつるりとしたスマホが触れて、途端に頭が現実へと引き戻された。 『櫻井さんは、まだ仕事というものが理解できてないんじゃないかな』 言葉は柔らかいが、冷たいものだった。 階段を上る一段ごとに蘇る上司の言葉が、足を重くした。
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