第1章

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 一旦言葉を切った郷谷が、元から細く切れ長の目で一同を見回してから、話を続けた。 「そうだね。まあ、ここまでは誰もが知るところなのです。問題は、春日和に勤務する人々の中から春日和の現状を詳しく洗い出す必要があります。それぞれの担当ですが、北条は営業部門の現状を把握してください。業務改善に向けて、まずは現在のキャッシュフローを含む財務の状況を詳しく知る必要があります」  郷谷にそう告げられた北条は、例の彫刻のような顔を綺麗に磨かれた爪に向けていたのだが、はいはい、というように頷いて笑顔を浮かべた。  淡い笑顔のままでその様子を確認した郷谷は、怒ることもなく言葉を続けた。 「殿下はすでに昨日の時点でいくつか報告を上げてきているから、引き続き業務全体の問題点を洗い出して欲しいと思うのですが、どうでしょう」  昨日と同じ、整っているのに暗い顔を郷谷に向けた殿下が、頷き返した。その様子を視界に入れたのだろう、郷谷が言葉を続けた。 「深澄は、アセット部門の方をお願いします。やり方はいつもの通りに任せますが、アクションを起こす前に報告、それから北条、殿下と連携してください」 「はーい」  にっこり、という表現が相応しいだろう。  教育番組に登場する幼い子のようなお返事を、深澄が返した。
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