第1章

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1 この夏は猛暑になるだろう、とテレビで気象予報士が告げた。 カーテンを開けて現れた青い空はたしかに好天で、響子の顔にも陽の光を落とした。 シンプルだが失礼のない程度の格好に身支度を整えた響子は、部屋を出た。アパートから駅への道も天気が良いだけで、明るい。 通勤時間を少しすぎたせいか、人通りはやや落ち着いていた。 駅までの道は古い商店街であり、年中閉店セールの店と豆腐屋が店前に出したのぼりが、ゆるく風に揺れる前を歩く。 あごまでのまっすぐな黒髪には、太陽が描いた艶がある。 白い綿の襟付きシャツを1番上まで留めた、黒いパンツスタイル、黒の革靴、トートバッグ。合わせているジャケットの深い緑も、暗い。 当節、いや、いつの時代の流行からも切り離したような格好だろう。
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