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改札をぬけ、電車に乗り。スマホではなく車窓から外を眺める響子には、音楽を聴くためのイヤフォンなどの姿はない。化粧気もない白い顔で過ぎて行くビルを、ホームの人を、街を見つめている。
乗り継ぎを二回、そして駅から歩いて十分。観光地としても有名な高層ビルに入った響子は、45階でエレベーターを降りた。
一階で乗り込んだ時は四機あったビルのエレベーターが、降りた時には一機のみ。振り返ると、何もない壁が三方から響子を囲んでいた。
人が訪れるのを拒んでいる、そんな感覚を抱かせた。
「櫻井響子さん」
名を呼ばれ振り返ると、若い女性がいた。
「はい」
「お待ちしていました、どうぞ」
促されて廊下へと進んだ。
白い壁と床、なにも飾りなど窓すらない空間を女性のあとにつづいて歩くと、白い観音開きの扉前でセキュリティシステムを女性が操作した。
開いたドアの向こうへ続くと、そこには色があふれていた。
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