第1章

7/26
前へ
/26ページ
次へ
熱帯雨林を描いた壁紙から、あざやかな色ガラスを組み合わせた吊り下げ照明まで。 絵画などの装飾品はみえないが、パレットの色をぶちまけたような様々な色が、そう広くはない空間に満ちていた。 目の前には、丸いテーブルと椅子があった。 「どうぞ、おかけください。今、部長が参ります」 「ありがとうございます」 響子は言われた通りに腰を下ろして、まだ感覚の揃わない視線を壁の一部にむけた。 ジャングルを描いたのだろうか。 椰子に、つる植物、絡まるように伸びる枝や葉。 名も知らない緑が繁っている。 ぼんやりと見ていたら、奥のドアが開いた。 「やあ、櫻井さん。お待たせしましたね」 「ご無沙汰しています」 あの三日月の人だ。改めて、と渡された名刺を受け取って再び椅子にかけた。 郷谷士郎(ごうやしろう)と書かれた隣には株式会社フラム、アセットマネジメント部部長と書かれている。 「どうですか、調子は」
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加