第1章

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「はい、いいと思います」 響子は笑顔を浮かべて答えるよう、努めた。 社会人になって最初におぼえた、愛想笑いというスキルだ。 これまでもこれからも、これでとりあえずは乗り切れるはずだった。 「そうですか。では、うちの方から送りました契約内容などは目を通されましたか」 郷谷は最初に会った時に、笑うと細くなる三日月のような目をしていた。今も三日月とまではいかないが、穏やかそうな表情で響子と対峙している。 「はい、読ませていただきました。……あの」 「なにか」 一瞬、聞いていいのかと躊躇した響子だったが、思い切って口火を切った。 「事務のお仕事だけで、本当によろしいんでしょうか」 「……え」 口にした瞬間に、妙な間があいたから、慌てて響子は言葉を続けた。 「あの、これまでは、その例えば契約書に書かれていたのは事務職でも、誰かが辞めるとか色んな理由で、ディーラーのアシスタント業務とか、気が付いたらとても増えてしまって」
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