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そこまで言ったところで、響子は言葉をとめた。
だから追い詰められていったのだ。
『このくらい、どこの会社にいっても同じだ』
『うちでできないんだったら、どこの会社に行っても使いもんにならんよ』
元上司の言葉が、耳の横をかすめていった気がした。
郷谷は響子が言葉をとめた後も、何も言わずに穏やかな顔のままでいた。
沈黙がおりた。浅くなった呼吸に気がつく頃、郷谷が口を開いた。
「契約書にあることが、事実です。櫻井さんが望まない限り、他の業務をお願いすることはありません。ただし」
「……え」
言葉を途中で止めた郷谷が、笑った。
「面白いと思いますよ、うちの仕事は」
目が、三日月を描いた。
(続く)
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