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肺にまで到達しそうな濃いコーヒー香りを吸うフリをして、隣の席から漂ってくる白い不健康な香りをこっそりと吸い込む。少々、髪の薄いオジサマとの間接キスだ。もしくは、間接鼻かも知れない。
口から吸って、鼻から出ただろう白い煙を吸い込む。これを、見知らぬ他人との無差別間接キスで、間接鼻なんて大きな声で言ってしまったら非難されるだろうから口を閉ざした。
良い匂いなんて形容出来ない嫌な香り。これが万人受けする甘い、それこそチョコレートのような香りであったら分煙なんて進まなかっただろうに。
好きじゃない。嫌な香りのついた白い煙が、この店の壁を完璧なセピア色に染めたと思うと嫌いと言えなくなる。それに、完全でない換気にこもった、もわっとした白さは境界を溶かすみたいで、嫌いじゃない。
厚みを持った薄い紙達を、パラパラと捲って、瞬く間に進んでいく角の数字をぼんやりと眺める。ジャンルさえ分からない読む気のない本のパラパラ数字を、何度か繰り返す。
白い煙越しの窓の外、感傷に浸るような何かのない私も感傷に浸りたくなるような静かな雨が降っている。水が60%を締める私の体が雨に打たれたら、溶け合ってしまうかもしれない。だから、雨がやむまでは。
「宜しければ、傘をお使いくださいね。」
「ありがと、また来るよ。」
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