恋でも愛でもない、安心感。

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恋でも愛でもない、安心感。

 雨が降りやむまでは、ここに居よう。ぼんやりとしたタイムリミットを決めて、ラブコメだか青春だかホラーだかミステリーだか、とにかく何かしらの本に視線を落とす。打ち付けるような横殴りの雨は収まった。今ならそう濡れずに帰れる。天気予報は一日中、雨と言っていた。  けれど、決まったタイムリミットは覆せない。  「コーヒーのおかわりはいかがですか?」  お気に入りの店主の穏やかな声に、頷いてコーヒーカップを差し出す事で返事にする。おじいちゃんの店主が、助詞を抜かずに喋る事に気付いてから、声を掛けられるのを楽しみになった。ロマンスグレーの店主は、無言に対して不愉快そうな様子はなく、「ごゆっくりなさってください。」と去っていった。  熱々のコーヒーは苦手だと言った覚えはないのに、三回程通った後には少しぬるめのコーヒーが注がれた。私にとっての適温が言わずに出てきた喫茶店は今のところ、この店だけだ。  適温のコーヒーの一口目はブラックで、二口目は角砂糖を五つ。マイルールに従って、せっかくの美味しいコーヒーを台無しにする。ティースプーンで作った小さな竜巻に、飲み込まれる角の取れていく角砂糖。     
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