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「朝日がキラキラしてるね」
笑顔を浮かべた優香はホットドッグを食べながら振り返った。その笑顔は無邪気で新は悲しくなった。
「優香、口。付いてるぞ」
新はポケットからハンカチを取り出した。
「ありがと」
優香はホットドッグの残りを口に詰め込みゴクンと飲み込んだ。新のハンカチは微かに新のシャツと同じ洗剤の匂いがした。
「……誰もいないね」
静かに優香は言った。
そこは大通りから一本裏道に入った静かな公園。フェンスには平和そうな鳩だけが居る。
「朝早いからな」
新は腕時計を見た。
「まだ6時だし」
優香はベンチに座った。新も隣に座る。
「LCCで来たかいあった。朝早く着くなんておトク」
そう言って笑うが本心から笑っていないことに新は気付いていた。
「ここなら私たちのこと知ってる人いないよね?」
「ああ」
「ここなら、私たち恋人になれるよね?」
「どうだろう。優香は童顔だからな」
ひどい、と優香は新の両頬を引っ張った。
「やっと……やっと恋人になれるのに」
優香は手を離した。その手は男の新にとって信じられないくらい小さく儚げだった。
「……1日だけの、な」
「私、どうしてお父さんの再婚相手が新のお母さんなんだろうってこの半年沢山考えた。あと、新の言葉も考えた。『幼馴染みの親しみと恋愛を勘違いしてる』って」
新は静かに聴いていた。
「私ね、1日早く2人だけでここに来られた事、喜んでるの。航空券を忘れたお父さんにお礼を言わないと」
優香は立ち上がった。後ろには朝日が照らしていた。それが眩しくて、新は目を細めた。
優香は手を差し出した。
「今日だけは恋人でいよう。買い物に行って、カフェに行って。それで、忘れるの」
微かに迷って新はその手を取った。
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