あたしともつれていいもの

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あたしともつれていいもの

「あんたは恋も知らないから」 と姉は言って笑った。  それでは、姉は知っているのだろうか。  カズさんを振り回したいだけのように見える。  姉の知らないことはいっぱいある。  たとえばあたしは、学校の帰りに区立図書館の前を通る。  図書館の大きなガラスの壁の前には、円い大きなコンクリートの鉢が据えられていて、やせたヤシの木がいつも風に揺れている。  ヤシの裾には、今の季節だったら、パンジーが寄せ植えになっている。季節が変わるとごっそりと抜かれて、取り換えられる子たちだ。  あたしは左手の手袋をぬいで、人差し指を、色がさめてしまったような青っぽい紫の花の横の土にそっと差し入れる。  1、2、3。  3秒もあれば十分。  少しだけしめった地面の中に拡がっている白い根の迷路や、眠っている幼虫や、それぞれの種類の粗い土や細かい土や、粘った土やさらさらな土の塊が押し合っているのが感じられる。  指をそっと引き抜くと、溶けたキャラメルのように糸を引く。  右手に用意していたハンカチで押さえて、指先が固まってから、また手袋をする。 「またおまえは部活にも出ないで、図書館のあたりをうろうろしていたってな」 担任に捕まる。 「そんなんだから友達もできないんだぞ。本なんかばっかり読んでいたってなにもわからない。人はな、つながりが大事なんだ」
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