第3話

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第3話

 しかし時の流れは無情です。いえ残酷とさえ言えます。  20年で髪の毛は更に薄くなり、いくら厚顔無恥な男でもとても「ジャン・レノ」と称することはできなくなりました。  こめかみ部分が大きく後退し、額の中央部分は産毛のような髪の毛がうっすらと残っている状態です。    男はもう、有名人に似ていると称することを諦めようと思いました。  ある日テレビを観ていると娘が 「この人パパにソックリ」と言いました。  今まで男は、有名人に似ていると言われることに喜びを感じていました。しかし今回は素直に喜べませんでした。  有名人には違いありません。人気もあります。好感度もかなり高いはずです。でも似ているとは言われたくなかったのです。  多分、自分がコンプレックスの感じている部分を強調されているように感じたのでしょう。  その男は自分の娘を凝視しながら、「いくらなんでも『ジャン・レノ』から『鶴瓶』はないだろう」と呟いていました。
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