第1話

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 その男は、自分が誰かに似ているなどということを、それまでは考えても見ませんでした。  ところが昭和50年頃、バイト先で10歳ほど歳上のお姉さんに「三浦友和に似ているね」と言われたことで、自分が有名人の誰に似ているかということを大いに意識するようになりました。  三浦友和は当時、山口百恵との共演で人気絶頂にあった大スターです。その大スターに似ていると言われたことで、まるで自分の容姿を誉められたかのように思い舞い上がってしまったのです。  それはその男が二十歳位の時でした。  実際は、どこがどう似ているなどと具体的に言われた訳ではありません。恐らく、年令が近いことと中肉中背であること、強いて言うならばあまりお喋りではなく落ち着いた雰囲気というところが、似ているといえばそう言えなくもないという程度のことだったのでしょう。  その後20年近くその男は自分は三浦友和に似ているのだと思い込み、人にもそう言い続けていました。
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