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<3-2>セムタム族のブレックファースト
パンクした自転車を滑走路脇の草むらに引きずって、ポピの木の根元に立てかける。
トゥトゥは手を出さなかった。
余所者の技術にセムタムが軽々しく触れることはない。
どれだけトゥトゥが異星の文化に柔軟だといっても、無限に柔軟なわけではない。
それはアムも同じことだ。
例えばセムタム女性はオルフを見せるために、上半身は胸以外の部分を隠さない。
でもアムは恥ずかしいので空港内では上着を着る。
その恥ずかしさは文化の違いによるもので、アカトになったからといって速やかに生まれ育った価値観を捨て去れるわけではないのだ。
トゥトゥと並んで歩きながら、そんなことを思う。
昨日、アララファルの鱗を求めてセムタムたちが居並んでいた坂道に、今はずらりと炊事の煙が並んでいた。
「すごい」
アムが目を輝かせて言うと、セムタムの料理人たちがぱっと顔をほころばせて応える。
「ドクターどうだい、このホピマウがいちばん美味いぜ」
「いんや、うちのテテカだね」
「違う違う。うちのプーリは女性うけがいいんだから」
アムはいちいちノートを取り出して記録を書きつける。
ホピマウは保存食としても重宝される、ホピの葉で魚や肉を包んだ蒸し焼き。
テテカは、小魚の塩漬けをあぶったもの。
プーリは、アルマナイマ固有のイモを潰してプリンのように蒸しあげた甘味。
ボールペンを取り出して(恐ろしいことに、この単純な形のペンは地球の20世紀の地層から発見されたものとほとんど変わり映えがしない)紙の上を走らせていると、セムタムたちがしげしげと覗き込んでくる。
彼らにもハウライ―――創世神話にて海龍の王アラコファルの鱗に浮かんだ紋様に着想を得てセムタムの祖が生み出したと説明される文字があるのだが、アカ・アカを通じてセムタム間の知識が均一化されていることから、書くあるいは書き残すという行為の需要が無かった。
それ以前に書きつける先である紙、パピルス、引っかきやすい石といった資源が少ない。
従ってハウライ文字が登場するのは神事、あるいはオルフとして成人の背に彫りつける用途に限定された。
朝ごはんについて文字で書き留めるアムの姿は、物珍しいだろう。
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