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<2-1>冠鱗
落下物が散乱している地点に戻ると、エヴァンが真っ青な顔で立ち尽くしていた。
ただならぬ気配に小走りで駆けより声をかければ、
「アム、話し合いは終わったのかい」
「話し合いじゃないわ。証立てよ」
「うん―――」
「エヴァン?」
「……もしこの状況で生存者がいるかもしれないと言ったら、信じてくれるかい」
顔面蒼白なエヴァンの顔から眼鏡がずり落ちて、滑走路のアスファルトの上を転がった。
アムはその眼鏡を拾い上げるのも忘れて言う。
「いるっていうの!?」
「僕のスキャナのアラートに<生体反応あり>って出るんだ。エラーに違いないけど」
眼鏡、とエヴァンが呻くように言ったので、アムはあわててそれを拾い上げた。
エヴァンの近視は本来ならばアルマナイマ星外の病院で正規の治療を受けたほうが良いレベルに達している。
手探りでアムの手から受け取った眼鏡をはめなおすと、エヴァンはアララファルの鱗が散乱する一角を指し示した。
その辺りでは、鱗に交じって宇宙客船ハーヴェストの外殻の燃え残りから白い煙が立ち上っている。
アムは目を凝らした。
エヴァンが言う。
「反応が出るのは、ほらあの大きな鱗の辺り」
滑走路のアスファルトに、ほぼ完全な形を保った鱗が突き刺さって静止している。
その鱗は他のものより色が濃く、禍々しいながらも否定しがたい美しさがあった。
揺らめく年輪模様を見つめていると、吸い込まれてしまいそうに感じる。
「冠鱗ね」
「まさかまさかだよ。こんな鱗が落ちるくらいだから、龍も痛かったに違いないね。でもアム、あの鱗の向こうに誰かが生きているとは、僕には到底思えない」
「行ってみましょう」
アムが同意を求めて横を向くと、エヴァンは頷いた。
幾分か顔色が戻ってきたようだった。
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