<序>アルマナイマの創世神話

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世界は二枚貝の中にあった。 貝の中では、長らく唯一の者がまどろんでいた。 唯一の者が見る夢は甘美で何一つ瑕疵のないものであった。 ところがある時、ふいに唯一の者が寝返りを打つと、その拍子に貝の口が開いた。 隙間から明るい光が射し込むと、あまりにもまばゆくて唯一の者は目を覚ました。 その拍子に、永遠とも思える時間ずっと開いていなかった瞼から涙がこぼれ落ちた。 涙からは三匹の龍が産まれた。 三匹の龍は唯一の者に比べれば小さな存在だったが、唯一の者は彼らを愛した。 三匹の龍にせがまれたので、唯一の者はその大きな体をうんと伸ばした。 すると天と地はみるみる分かれて広くなり、三匹はとても喜んだ。 世界がまったく明るくなったので唯一の者はまた、まぶしくて涙をこぼした。 地の多くが涙によって海になった。 さて唯一の者は三匹を並べて、世界を一周してくるようにと命じた。 三匹はあっという間に世界を回ってきた。 最も早かった龍は太陽まで行って、その炎を身に移してきたので、鱗が黄金色に輝くようになった。 唯一の者は黄金の龍を褒め、天を治めるようにと言った。 それこそがアララファルである。 残った二匹の龍に向かって、 唯一の者は海の底まで行くようにと命じた。 海はたいそう深く、世界の果てよりもなお深いようだった。 一匹はぐんぐんと潜り始めたが、もう一匹は兄弟のうちで最も体が小さかったがために、このままでは負けてしまうと思い一計を案じた。 小さな龍は涙の海の底に沈んだ大地に呼びかけ、どんどん高くなるようにと言った。 大地は龍の呼び声にこたえて背を伸ばし、ついには海の表を割って天を突くようになった。 唯一の者はこの知恵に驚いて褒め、小さな龍に大地の支配者アラチョファルの名を与えた。 そして潜った最後の一匹は、わずか一息で深い海底まで潜って帰ってきた。 あの世まで通じる海の淵を乗り越えてなお息を乱さぬ龍の胆力を、唯一の者は褒めた。 その龍は、海龍の中の長アラコファルと名乗ることになった。 さて、アラコファルが海底に至った証拠に持ち帰った泥の中から美しい女神が現れた。 目覚めた女神はアラコファルに求婚し、アラコファルも女神を愛した。 海龍神と海底の女王の間に産まれた十一個の卵からは、まず沢山の龍たちが、ポピの木が、そして最後に男のセムタムと女のセムタムが現れた。 唯一の者は彼らを祝した。
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