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自分の習熟したレシピであれば目をつむっても皿に盛り付けるところまで出来ると、知り合いのセムタム料理人は言ったものだ。
アムのことは、知識ひとつ頭に納めることすらとても不器用な種族だと認識されているかもしれない。
夢中でノートと格闘している間、トゥトゥは何も言わなかった。
それが彼の優しさであることをアムは承知している。
頭の禿げあがったプーリ屋の店主が、売り物を小さく切って試食させてくれた。
ほんのりと甘く、どこか懐かしい、カスタードプリンに近い味がする。
「美味しい」
と言った拍子におなかが鳴った。
アムが、あ、とおなかを押さえると、店主は笑い
「早く大きなものを食べさせてもらいなさい。あなたは沢山の役割をする人だから」
とジェスチャーを交えながら言う。
「そうするわ。ありがとう」
トゥトゥのニュアンスには慣れたが、初対面のセムタムとの会話はまだいささか拙い。
顔を赤くしたアムが歩き出すと、頭の上の方で、ふん、とトゥトゥが鼻を鳴らした。
何事かと見上げると、トゥトゥの視線は坂の先、海の方を見ている。
船の近くにエヴァンが立っていた。
珍しくセムタムと話をしていて、今ちょうどその会話にきりがついたらしい。
通訳が要らないくらいの内容だったならアムも心配することはない。
こちらに気づいたエヴァンが手を振ったので、アムも振り返した。
トゥトゥはもう一度わざとらしく鼻を鳴らした。
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