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<1-1>黄金の龍、宇宙船を撃沈する
現地時間午前十時五十八分。
アルマナイマ国際宇宙港の上空二千メートルほどの場所で、大気圏外から突入し着陸態勢にあった汎宇宙客船<ハーヴェスト>が爆発した。
管制室からモニタしていたアムは、ハーヴェストが上空で大きな花火と化す直前に、ああこれはダメだ、と確信していた。
爆発の数秒前からレーダーには巨大な影が確認されている。
それが星の主、龍とよばれる生命体が持つ質量であることは、長年このレーダーと付き合っているアムには自明の理であった。
今回のレーダー反応は超弩級。
急いで窓に駆けよってブラインドをこじ開け上空を双眼鏡で眺めると、長い体をくねらせた龍が、白く塗装された宇宙船、世俗的な企業広告をそのわき腹にごてごてと書き込まれたハーヴェストに体当たりするところが見えた。
龍の鱗は黄金に煌めき、堂々と開かれた翼の間に雷が走っている。
頭に生えた対の角は螺旋を描いて屹立し、瞳は血の如く赤い。
長い胴体には三対六本の手足。
先端まで黄金色に染められた尾が打ち振られるとハーヴェストの胴に冗談のように大きな穴が開く。
壮麗な眺めだった。
そこに人命が失われるのでなければ。
高速で降下中の客船ハーヴェストに反撃の機会は与えられなかった。
与えられていても、客船の攻撃装置程度では鱗を貫通するに至らなかったであろう。
龍は天空の彼方から現れてハーヴェストに一撃を食らわせ、木っ端みじんにしたのち、あっという間にまた空の住処に去っていく。
飛翔に乱れはなかった。
龍へのダメージは皆無。
気にくわなかったのであろう。
恐らくは。
一年に一度は、こういった不幸なアクシデントが起こる。
それがたまたま今日だっただけで。
管制室のレトロな電話が鳴る。
モニタには緊急事態を知らせる真っ赤なアラートが表示されていた。
「<!>宇宙船からの信号が途絶えました」
アムは冷ややかな視線でその文字をなぞりながら電話を取る。
途絶えましたって、そりゃあ爆発したんだもの、現実を自分の眼で見てきなさいよ機械さん。
「はい、管制室」
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