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<1-2>鱗を拾いに
「ああ神よ―――派手に爆発してしまった、アム」
「知ってる。龍でしょ」
「今まで空港上空に出た中では最大級だった。黄金色だったよ」
「鱗を拾いに行きたいのね?」
「恥ずかしながら」
「行けばいいじゃないの。落下物地帯は関係者以外立ち入り禁止になってるでしょ」
「アム、一緒に来てくれないだろうか。龍の鱗は大きいし、重いし、それに」
「私がアカトだから」
「そう。頼むよ」
「五分待ってて」
「愛してる」
小さくため息をついて、自分の気持ちをごまかして、アムは受話器を置いた。
背もたれにかけていたアルマナイマ国際宇宙港のロゴが入ったジャケットを羽織る。
それからアカトの証であるペンダントも首から下げる。
宇宙船を模した形に作られた鈍色のペンダントヘッドは、アムとこの星の住民たちとの良好な関係の証であった。
管制システムに<新規受け入れ禁止>のコマンドを入力すると(そもそも次の便は一か月後だけれども)、アムは照明を落として部屋を出る。
目から涙がぽろぽろ落ちた。
◇
宇宙港の滑走路を自転車でかっ飛ばして行く。
前方に陽炎のような黄色と黒の縞模様のテープが張られているのが確認できた。
いわゆるトラ柵テープ、昔ながらの立ち入り禁止のサイン。
どれだけ人が宇宙を渡るようになっても、電子上以外の場所を立ち入り禁止にしようとした場合、いちばん有効なのは物理的に囲うことだという。
上空の特殊な大気層のせいで電子機器の使用が制限されるこの星では、まったくもってその通りだ。
十分ほど自転車をこぐと、トラ柵テープの向こうで立ち働いている人影がぽつぽつと判別できるようになる。
人影の内訳は生きている人間がひとり、残りは人型の作業機械。
アムに電話をかけてきた相手の姿はそこにあった。
やせぎすの上半身に、ぺったりと頭に張り付いた短めの金髪。
テープの前で自転車を止める。
「エヴァン」
呼びかけると、眼鏡をかけた顔がひょいと振り向いて、笑顔になった。
相変わらずのふにゃふにゃした優男だな、とアムは思う。
「待ってました、我がアカト。龍の鱗がけっこう落ちてるみたいで、セムタムたちが沢山集まってきてるんだ。いつもより興奮してる。彼らがしびれを切らす前に頼むよ」
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