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<1-3>集結するセムタム族
「了解。セムタムたちはどこ?」
「あっち」
エヴァンが指したのは、南側だった。
そちらには海がある。
「行ってくる。私が挨拶を終えるまでは、触らないようにして」
「分かった」
神妙な顔で頷くエヴァンに手を振って、アムは歩き出した。
落下物がいくつも目に飛び込んでくる。
龍の鱗。
ほぼ完全な形で脱落したと考えられる一メートル幅の大きなものから、こぶし大のかけらまで、無数に散らばっていた。
まるで黄金の雪が降ったかのようだとアムは思った
この星の住人であるセムタムは龍の鱗から様々な品を作る。
金銭という概念のない海洋狩猟採集民の彼らにとっては、龍の体のパーツというのは最高級の価値を持つ逸品だ。
完全形の鱗を傷つけずに遠洋の島までもっていけば、一年二年は左団扇で暮らせるかもしれない。
事故の多い宇宙港の近辺で彼らが待ち受けているのも、当然のことだろう。
もっとも龍は彼らにとって神にも等しく、神の事故あるいは故意の負傷を待って利益を得ようとする考え方に警鐘を鳴らすセムタムも、勿論のこと、いる。
セムタム同士のトラブルを避けるために、宇宙港関係者からの挨拶と説明は欠かせないのだ。
南へ南へと足を進めると、次第に人々のどよめきが聞こえるようになる。
打ち鳴らされる太鼓、吹き鳴らされる貝笛。
翻る紋章入りの旗。
エヴァンの言う通り、いつもより随分と人数が多いようだ。
彼らが詰め掛けた坂の向こう側に、エメラルドグリーンの海が見える。
伝統的なカヌー、ファッカムセランの白い帆が海に点々と広がっていた。
まだ続々とセムタムたちが詰め掛けているのだろう。
勇気を出すためにアムはセムタムの歌をハミングしながら歩く。
<海に誓え/卵が割れた日の如く/星を見て進むべき道を知る/海の血族の誓いを>
照りつける日差しが暑い。
アルマナイマ国際宇宙港島、通称空港島は常夏の島だった。
ヤシの木に似た大きなポピが滑走路の脇ににょきにょき伸びている。
木陰を渡る風は涼しそうだが、アムは堂々とセンターラインを歩かなければならない。
何故なら、セムタムの文化において隠れることは恥だからである。
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