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<1-5>聞き取り調査
まばゆく輝く黄金色。
最前列の人々から驚きの声が上がった。
やはり、という声もあった。
「私たちが一応の調査をした後は、いつものように拾っていただくことができます」
アムは続ける。
「けれども今日は人が多いようだから、どうか争わないで」
一度言葉を切ってセムタムたちの顔を見渡した。
表情の豊かな彼らの顔の上に、いつもとは違う気配が漂っている。
緊張というか不安というか。
アムは、その意味することを悟っている。
セムタム族の創世神話によれば、黄金の鱗を持った龍はこの世にただ一匹しか存在しない。
天頂の王、雷の槍を握る者、太陽を宿す龍、キナンを従える師。
そんな大物が現れることは滅多にない。
「その前に教えてほしい。アララフ―――」
セムタムたちは我先に殺到してアムの口を押さえようとした。
はっと気づいてアムはその先を呑み込んだ。
神たる龍の本名を呼んではいけない。
来てしまうから。
アカトだというのに、そんな単純なことすら忘れていた。
しばらく海から離れると、考え方もセムタムから離れてしまうようだった。
このまま坂を駆け下ってファッカムセランに乗り海に出てしまいたい。
アムは言いなおした。
敬意を持って、敬称にて語る。
「<黄金の王>の出現について事前に知っていたアカトはいますか?」
興奮した現地語が飛び交うのに耳を澄ませる。
言葉を選んで喋るのは難しい。
聞き取るのもまた。
アムは異星語の専門家であり、アカトでもあるが、ネイティブスピーカーではない。
セムタムはセムタム以外の文化圏を(おそらく)知らないから、自分たちのことを外部の者に説明するのは不慣れである。
今回の聞き取りは特に難易度が高かった。
お手上げかな、後でゆっくり教えてもらうしかないかな、とアムの脳が諦めの姿勢を見せ始めた時、
「おめえら、それじゃドクターにはわかんねえよ」
そんな声が群衆の後ろで響いた。
口調から読み取るに、そういうぶっきらぼうなニュアンスで言ったのだろう。
黄金の鱗を見た時とはまた違うざわめきが群衆から上がった。
ブーイングのようだ。
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