<1-6>トゥトゥ登場

1/1
前へ
/51ページ
次へ

<1-6>トゥトゥ登場

アムが顔を上げると、人々を掻き分けたひときわ長身のセムタム青年が、こちらを見ている。 「トゥトゥじゃない!お久しぶりね?」 久しぶりだな、と青年は言って笑った。 「アカ・アカが無事に終わったなら何よりよ」 「それについては、またゆっくり話す」 トゥトゥとは半年ぶりの再会だが、いちだんと声が大きくなったように思う。 百九十センチ強の身長に見合う、太鼓の革のように張りのある大きな声だった。 燃えるような赤い毛束が、彼が首を少し傾げるのに合わせて揺れる。 肩にケープを羽織っていて、それがアムには引っかかった。 成人の儀を終えた者は肩甲骨周りに刺青を彫る。 それはオルフと称され、成人と非成人を分かつ最もわかりやすい要素なのだ。 あえて見せないのか、それとも見せたくないのか。 トゥトゥ一流の反骨心の現れのような気もしたが、わからなかった。 「ドク、こいつらは怖いんだ」 「つまり本物なのね?」 「そう。災いの前触れだからな。アンダナマスのじじいが預言した。黄金の王が空を駆けて、鱗を散らし、余所者の船は沈むであろうと」 「それでみんな―――」 トゥトゥは両手を広げて、頷いた。 「鱗を壊そうとしてるのさ。地の上に置いておきたくないから」 まあ俺は持って帰るけど、というようなことをトゥトゥは話したらしい。 周りを囲むセムタムが鋭い口調で叱責した。 一方のトゥトゥは片方の眉毛をおどけるようにちょいと上げて、それを同族への返事がわりにする。 アムが口を挟むよりも先に、トゥトゥが言った。 「黄金の剣は俺に似合うだろう?」 またセムタム諸氏からのブーイング。 罵声を浴びながらトゥトゥがにやっと笑うと、その口の中の鋭い犬歯がちらりと見えた。 どうもこの子は、とアムは気を揉む。 事あるごとに斜に構えようとする。 面白がって面倒を起こす。 能力は一級品なのに。 しかし成り行き上、この場のかじ取りはトゥトゥを見守るしかないと思って、アムは何も手を出さないことにした。 「アカトたるトゥトゥは証を立てる。俺はあいつの鱗をもらう。文句があるなら―――」 トゥトゥは拳を掲げる。 「これで来い!」
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加