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<1-6>トゥトゥ登場
アムが顔を上げると、人々を掻き分けたひときわ長身のセムタム青年が、こちらを見ている。
「トゥトゥじゃない!お久しぶりね?」
久しぶりだな、と青年は言って笑った。
「アカ・アカが無事に終わったなら何よりよ」
「それについては、またゆっくり話す」
トゥトゥとは半年ぶりの再会だが、いちだんと声が大きくなったように思う。
百九十センチ強の身長に見合う、太鼓の革のように張りのある大きな声だった。
燃えるような赤い毛束が、彼が首を少し傾げるのに合わせて揺れる。
肩にケープを羽織っていて、それがアムには引っかかった。
成人の儀を終えた者は肩甲骨周りに刺青を彫る。
それはオルフと称され、成人と非成人を分かつ最もわかりやすい要素なのだ。
あえて見せないのか、それとも見せたくないのか。
トゥトゥ一流の反骨心の現れのような気もしたが、わからなかった。
「ドク、こいつらは怖いんだ」
「つまり本物なのね?」
「そう。災いの前触れだからな。アンダナマスのじじいが預言した。黄金の王が空を駆けて、鱗を散らし、余所者の船は沈むであろうと」
「それでみんな―――」
トゥトゥは両手を広げて、頷いた。
「鱗を壊そうとしてるのさ。地の上に置いておきたくないから」
まあ俺は持って帰るけど、というようなことをトゥトゥは話したらしい。
周りを囲むセムタムが鋭い口調で叱責した。
一方のトゥトゥは片方の眉毛をおどけるようにちょいと上げて、それを同族への返事がわりにする。
アムが口を挟むよりも先に、トゥトゥが言った。
「黄金の剣は俺に似合うだろう?」
またセムタム諸氏からのブーイング。
罵声を浴びながらトゥトゥがにやっと笑うと、その口の中の鋭い犬歯がちらりと見えた。
どうもこの子は、とアムは気を揉む。
事あるごとに斜に構えようとする。
面白がって面倒を起こす。
能力は一級品なのに。
しかし成り行き上、この場のかじ取りはトゥトゥを見守るしかないと思って、アムは何も手を出さないことにした。
「アカトたるトゥトゥは証を立てる。俺はあいつの鱗をもらう。文句があるなら―――」
トゥトゥは拳を掲げる。
「これで来い!」
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