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夜中にこの部屋から出ていく奴もいる。
そして入ってくる奴もいるんだが、そんな奴はコルトの能力の恩恵をまだ受けてはいない。
その差がはっきりと分かる今朝。
気持ちのいい朝を迎えたかどうか。
その表情で区別がついた。
「コウジさん、今日のバツは、あの剣士さんの昨日の話を聞いてからにしたいんですが……」
さもありなん。
昨夜は飯食った後、女剣士に無理やりみんなの前に引っ張り出され、説明もなしに歌わせられたからな。
あれこそがバツを受ける者の顔だ。
だが今は、及び腰ながらもいくらかは前向きな姿勢を見せている。
不満だ。
大いに不満だ。
だが、この感情はあくまでも個人的なもの。
この矛を一旦収めようか。
とりあえずは毎朝通りに握り飯配給だ。
その仕事の進み具合のペースはいつもより早い。
気のせいじゃない。
コルトは気合が入ってそうな顔をしている。
というより、早く話を聞きたがってるのか。
「おい。トレイからおにぎりを落としそうなフラグ立ててんじゃねーぞ」
「え? あ、はいっ」
釘を刺すタイミングが絶妙。
自分で褒めたいくらいだ。
周りがそれを聞いて、本人よりも注意してくれてんじゃねぇか。
しょうがねぇな。
※※※※※ ※※※※※
やる気のある顔をしている。
顔だけじゃない。
朝飯も握り飯は二個。
なのに、今朝は一個だけ。
しかも水で喉の中を押し流す。
それだけあの女の話を聞きたがってんだな。
筆記具を持って、何かの授業を受けるみたいに教えを乞うている。
まぁ前向きなのはいいことだ。
で、話を聞き終わると俺の所に寄ってきた。
「昼ご飯を一時にする?」
「はいっ。……恥ずかしいですけど、あの人の話を聞いて、お昼にバツをやると、私の歌の効果がみんなに一番効果的かもって」
ふーん……。
まぁ……いいけどさ。
「分かった。んじゃ一時に持ってくりゃ、俺は巻き添えを食らわずに済むって訳だな?」
「はいっ。お願いしますっ」
こいつに持って来る飯のことを話すといつもこんな風に頭を下げられるのだが、今回は何となく、初めて力がこもった挨拶をされた気がした。
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