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握り飯作りの合間に食事を取る。支度も当然俺自身。
風呂にも入ってまた握り飯づくり。
具材もチェック。
梅はかなり残ってるな。
たらこにぼだっこ……もとい、塩じゃけ、昆布、人気があるから残りが少ない辛子明太子、混ぜご飯風のも時々作るが今はやめとくか。
そんな算段をつけて出来上がった残りの百五十個。
屋根裏部屋に持っていく夜の時間は毎日八時。
異世界の冒険者達ですし詰めになることはない。
一人が出れば一人入れる、そんなシステムのようだ。
けれど種族の偏り具合によっては、いくら定員でも狭くて身動きがとりづらそうな時もある。
逆に誰もいない時間帯はなさそう。
握り飯を持っていく時間はほぼ決まっていてその時を待っている奴もいるみたいだ。
「差し入れ持ってきたぞー。怪我人とかが先だからなー……って……。……何? これ」
「お待ちしてました。混雑したらみんな困ると思いまして……」
普段ならショーケースの前に冒険者達が押し迫るんだが、全員蛇行しながら行列を作り、しかも整列している。
いつも見る混雑の様子がない。
時折罵声が飛ぶ騒乱ぶりも全くない。
ショーケースの前で受け取った者が、すぐに退室できるスペースまで空けてある。
ショーケースの脇で佇んでいるコルトが照れ笑い。
「この子が仕切ってくれたんだぜ? いいバイト見つけたじゃねぇか、コウジ」
「……バイトじゃ……ねぇよ」
「押しかけ女房か? それにしてはちょっとこの子、若すぎねぇか?」
「ざけんな! 握り飯やらねぇぞ?! 黙って必要な分だけ持ってけ!」
今までは、方々から握り飯を求める手が伸びてきていた。
うっとおしい上にうんざりする。
怒鳴り声もあっちからこっちから飛んできて、その時間帯の怪我人たちはとても休息どころじゃなかったろう。
ところが今はそんなことはなく、みんな大人しく順番待ちをしている。
いや、ちょっと待て。
ショーケースの脇にあったあれだけのガラクタはどこ行った?
「え、えっと、アイテムを組み合わせて道具作ったり武器とか防具とか作ったり……」
「握り飯も欲しかったけど、この子が作る道具も有り難いっつって持ってく奴が大勢いたぜ?」
握り飯を求めて並んでいる冒険者の一人がそんなことを言ってきた。
コルトの方を思わず見る。
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