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コルトは照れているのか、やや俯いている顔が赤くなっていた。
「ということで、お代はこれな。んじゃ一個貰ってくぜ」
「オイこら待て。俺にはガラクタには変わりねぇんだ!」
呼び止めるより立ち去る方が早かった。
置いてかれたのは、おそらく何かの動物の牙のような物。
白くて硬くて、反り返りがある楕円形の円錐。
こんな物のどこに価値があるというのか。
「だ、大丈夫です」
さっきまでの照れ笑いはどこへやら。
コルトが俺に話しかけた。
貧相な彼女だが、その目には来たばかりのひ弱さは感じられない。
「大丈夫? 何がよ」
「私がさっきみたいにいろいろ細工して道具を作りますから」
そう言う意味じゃねぇよ。
力抜けるわ。
「そりゃお前にとっては出来る仕事だからいいだろうが、俺には何の利益もねぇんだよ! 俺の世界で金に換えられるもんじゃなきゃ意味ねぇんだよ。そのまま放置されたらゴミになるだけの物を捌いたのは褒めてもいいけどよ」
ツンデレではない。
断じてツンデレではない。
デレ要素は全くないから。
それにしても、会話……会話とは違うな。言葉のやり取りに夢中になっても、握り飯を鷲掴みにして持ち去る奴がいない。
今までずっと、油断も隙もない連中と思ってたがこいつらも、雰囲気に染まることはあるんだな。
こいつ一人でここに居る連中をこんな風に変えたのか?
そう考えると、この女エルフの功績はかなり大きい。
その仕事で助かった思いは正直ある。
「あの、何かまずかったですか?」
あ、ついこいつを見ながら考え込んじまった。
けどこいつはいいのか?
「ここで仕事したって給料なんか出せねぇぞ。個室もなきゃ風呂もねぇ。食いもんと言えば握り飯の余ったやつが精一杯。骨折り損のくたびれもうけだ。それでも」
「それでも、誰からも何も文句を言われずに済むし、一人きりじゃないですし」
おいちょっと待て。
一人きりじゃないってお前。
「いつもこんなにいろんな人が来るじゃないですか。寂しくもないですし平気ですよ。それに」
「それに?」
また赤面して俯いてる。
何なんだよこいつ。
「……それに、そこまで食いしん坊じゃありませんっ」
あぁ、そういうことね。
……でも何でこっちを見てる、並んでる連中全員からため息が出るんだ?
関係ねぇだろうが。
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