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「まぁ今回はたまたまよね。コウジもこの娘に歌わせてなけりゃ、その能力を見落とすとこだったもん」
「……ま、何でも試してみるもんだな。女も度胸、ということで」
「そうだ! お姉さんのお名前まだ聞いてないっ! 教えて下さ」
「ストップ! ストップだ、コルト。それは聞かない方がいい」
「え? どうして? だって私の」
恩人、だろうな。
それは否定しねぇよ。
けどな。
「名前覚えたところでどうする? またここに来る可能性はある。けど普通は来ることは考えないぞ? だって自分の身をみずから危険に晒すんだ。そんなことを考えるのはまともな奴じゃねぇ」
「まぁ確かにただ危険な場所に行くだけだったら、頭どっかおかしいわな。俺はやっぱ、宝物目当てにダンジョンに潜り込むからな。トレジャーハンター系に偏ってる。だからこうして何度もきてるわけだ」
そういう弓戦士は三回目くらいか?
「俺はこいつの名前も知らない。何度来られても名前を覚えるつもりはない。唯一知ってるのはコルトだけだ。そいつは初めてここに来ただろ。ここに来る奴を平等に接待するには、みんなの名前、素性をなるべく知ろうとしないようにするくらいだな」
「コウジってば硬いわねー。聞かれりゃ答えるけど、ここの管理責任者のコウジがそういうなら言わないでおくわ」
「あぁ。そうしてくれ」
変に親しみを覚えて、厄介なしがらみができちまったら対処しようがねえしな。
「でも私も二回もコルトちゃんの歌声の世話になったから、もう行くね。ありがとねコルトちゃん。それとコウジも」
俺はついでかよ。まあいいけどさ。
「おう。無事に帰って、二度とくんなよ?」
「はは、どうだろね。じゃあね」
コルトは目をキラキラさせながら、女魔法剣士を見送っていた。
何か、明るい未来が見えてそうで何よりだな。
「んじゃコルトー。これからは一日三回、やってもらおうかな。お前にしかできない新たな仕事だ。照れたりしてる場合じゃねぇぞ」
「うっ……。は、はいっ」
……なんか、ちょっと頼りがいが感じられるようになったのは気のせいかね? うん。
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