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死にそうな顔でやって来る冒険者達。
それはずっと前から変わらない。
だが、すっかり変わったこともある。
完全に回復して部屋を出て行くまでの期間。
そして、出て行くときの彼らの表情だ。
コルトに歌を歌わせることを課してからだった。
最初は赤面しながら弱々しいハミングやスキャットだった。
それでも効果は、俺の握り飯に次ぐ癒しの効果があった。
けどそれも今のうちだ。
こいつが自信満々で歌えるようになったら、間違いなく俺の握り飯はこいつの歌の補助になるだろう。
一日三回、時々四回。
一ヶ月も続けてれば、自信も少しずつついてくる。
けどコルトの場合、その癒しの能力に対する自信じゃなく、歌唱力の自信のようだ。
ほぼ同じようなもんだろうが、目に見える自分の成長が楽しいんだろうな。
部屋を後にする連中の、礼を言う言葉も力がこもってきたのを感じる。
俺にしてみりゃ、一々うるさい。
「ご恩は一生忘れません」
とか言う奴がいるが、覚えてようが忘れてようが、俺の生活に変化はないからだ。
ただ、死にそうな顔してた奴が元気になっていく様子を見るだけで、割とうれしく感じる。
部屋の掃除をするときれいになっていく。
それを見て気持ちが清々しくなるのと似てる。
まぁこっちが勝手にそう思ってるだけなんだけどな。
けどコルトは、そう言われることに一々感激してる。
今までのコルトの仕事は、はっきり言えば誰にでもできる仕事だったからな。
それが自分にしかできないことが見つかった上、そのことで礼を言われてる。
「いえ! こちらこそありがとうございます!」
などと礼を返している。
言われた冒険者は、感激のあまりに力がこめられたコルトからの握手をされ、逆に戸惑ってたりもする。
何か面白いな、この現象。
しかしコルトは、礼を言う一人一人に一ヶ月間もよくそれを続けていられるもんだ。
その人数は、当然数え切れない。
「彼女は一体何者だ?」
俺にそう聞く奴も多い。
俺はここぞとばかり、ドヤ顔で答える。
「見ての通り、エルフだが、仕事はキュウセイシュだよ」
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