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俺は間違ったことは言ってない。
質問する奴らは聞き返す。
「救世主……って、コウジさんのことじゃないのか?」
「あいつもキュウセイシュだよ」
「へえぇ……」
してやったり。
仏頂面で握り飯を作る、魔法もできない男より、いつも笑顔で歌って癒しを与える女エルフ。
どっちが「キュウセイシュ」と思われやすいかな?
「けどコウジさん」
「何だよ、コルト」
「あの二人の乱入者、あの後全く音沙汰ないですね」
あれだけの騒ぎを起こして、その後は何の追撃などもないってのも確かにおかしな話だ。
まあ備えは怠ってはいないし、何の手段があるのかは分からんが、最近のコルトは何かにつけて自信満々のように見える。
だが、乱入者ではないが、珍客が増え始めた。
珍しい種族や職業の冒険者、という意味じゃない。
「キュウセイシュ様っ!」
回復した冒険者がそう感激して、コルトにハグを求めたり、感涙しながらコルトに負けないぐらいの力を込めた握手を求める者が増え始めた。
そして、俺にそんなあだ名で呼ぶ者はいなくなった。
コルトは、そう呼ばれ始めた頃は照れながらも相手の反応に身を任せていたが、ここのところは逆に気味悪そうな顔をしたり、以前の気弱な顔をたまに見せるようになった。
自分の成したことへの実感を、周囲の感動が上回ったとでも言おうか。
だがそれこそが俺の作戦通り。
「救世主」という呼称がなかなか消えないのならこいつに押しつけてやれ、という俺の企みだったのだ。
器が小さい?
笑って済ませられる範囲だろ?
コルトの能力はいわば、場を和ませる効果があると言えるのだから。
……しかしこの企みは、やはり軽率だったと反省することになる。
コルト。
ほんと、ごめん。
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