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「あ……」
それは、コルトの小さい声から始まった。
朝の握り飯タイム。
コルトもいつものように、行列の中ほどにトレイを持って行って、そこで冒険者達に握り飯と水を配っていた。
コルトの作業でミスをしたか。
……いや、そんな感じじゃない。
何かを見つけた時に出るような声だ。
俺はプレハブから家の中に入れる出入り口のそばにいる。
屋根裏部屋とプレハブの間にいるコルトは、こっちに背を向けている。
だから何がどうしたかは俺には分からないのだが。
「だ、大丈夫?」
俺から見えるコルトは、壁の向こうに姿を消した。
「キュウセイシュ様、俺らはいいから先にあの子を」
「コルト様、どうか先に……」
すっかり「キュウセイシュ」という敬称は完全にコルトに定着したようだ。
ほっとする。
が、そっちは何やらそれどころではなさそうだ。
部屋にいる連中の雑談が、屋根裏部屋の方では静まっている。
そして聞こえるすすり泣きしながらの呻き声。
女性……女の子?
……そんな来訪者が現れるのは珍しくはないんだが、異世界間でも行き来は出来ないとは言え、同じ冒険者。
コルトにはそんな気持ちがあるのか、歌声に癒しの力があると分かってからは、初めてここに来る者達には積極的に駆け寄って元気づけようとすることが多くなった。
が、今回はちょっと違った。
「コウジさーん、そっちの窓際の場所にこの子連れてくねー」
壁越しに聞こえるコルトの声。
それでもコルトは、誰かをそこまで優遇することはほとんどない。
雪も解けてきて、暖かな日差しがプレハブに入ってくることが多くなったこの時期は、コルトが希望する窓際が実に気持ちいい。
俺が返事するまでもなく、その辺りにいた者達は自主的にそこから遠ざかる。
コルトが連れてきたのは、その種族の特性上彼女よりも背が高い人馬族。
いわゆるセントール。ケンタウロスとも言うんだっけか。
それにしては随分衰弱している。
って当たり前か。
そんな奴しかここには来れないらしいから。
それでも体重は重そうなんだが、コルトがしっかりと支えてプレハブの方に連れてきた。
「ここなら大丈夫。ほら、お日様が外で照ってるから暖かいでしょ? 眠ってていいからね」
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