事情はそれぞれ

120/173
前へ
/233ページ
次へ
 コルトに頼る。縋る。  普通なら、そんな思いが見えそうな言葉が出てこないか?  でもあの子が言った言葉は、経験を重ねてきた冒険者なら、自分の胸を叩きながら言いそうな言葉だよな。  尊い存在に身を捧げる、みたいな。  まぁ「キュウセイシュ」の肩書を擦り付けることができた、とも言えるが……。  待て。  一体何から守ろうとしてるんだ?  他の異世界人から見たら、別世界の存在として受け取れる。  だが、自分らの世界から異界に移動した同郷の者が「キュウセイシュ」として活動しているって話を聞いたら……。  そいつに仕える、という意味で守るとしたら……。  そんな気を起こせるものか?  そもそもコルトだって経験の浅い冒険者って話だったはずだ。  邪心しか持ってない奴がその話を聞いたら……。  例えば……「あんなポンコツにそんなことできるわきゃねぇだろ」  とか、「だったらそんなとこでそんなことしてねぇで、国に戻って、そこで活動したらいいじゃねぇか」  とか、「そんな未熟な冒険者なら、もっと鍛えてやって恩を着せれば、その力は俺達のものだ」  とか思うだろう。  それにしてもだ。  それが事実だとしても、なぜコルトと面識がない者がそうまでしてこいつを守ろうとしたんだ? 「キュウセイシュ」なんて渾名がつく存在だ。  自分とは住む世界が違う、と普通は思わないか?  なのに守ろうとする。  理由は簡単だ。  その存在が、自分の手に届く距離にいるから。  面識がないのに、なぜ手が届くと思えたか。  未熟な冒険者ということで親近感を覚えたか。  それはない。  未熟な冒険者だって数多く来た。  けれども誰一人としてそんなことは言わなかった。  それどころか、こんなに近づくことができて畏れ多いという思いを持つ者が多かった。
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!

465人が本棚に入れています
本棚に追加