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「お前の祖母さんは四百個作ってたんだぞ?」
「作るのが当たり前みたいなこと言うな! そもそもそんな腹が減るんなら、その分食料多く持ってくるのが普通だろうが!」
普通の人は、一人で毎日おにぎりを三百個も作るなんてことはしないだろう。
俺の場合はさせられてる。
というか……。うん、させられてる。
祖母ちゃんから頼まれ、引き継いだ仕事。
最初はそのつもりだったんだがなぁ。
だが、祖母ちゃんは祖母ちゃん。俺は俺。
そんな理不尽な文句を言われたら、こっちだって言い返す。
握り飯に関連した口論は俺と客の間ばかりじゃない。
「おいっ! そのシャケは俺のだ!」
「とか言いながらお前は肉のやつ持ってんだろうが!」
「梅干しは取り合いがあまりないから楽に選べるけど、タラコはすぐになくなっちゃうのよねぇ」
「オカカは好きだが体力の回復量が少ない。他に何か加えたらどうだ?」
「あまりわがまま言うなよ。コウジ一人で作ってんだろ? これ」
「あの婆さん、こいつより百個は多く作ってたんだぜ? こいつはもっと若いんだ。それくらいの体力なくてどうするよ!」
「おいっ! 一人で五個も六個も持ってくな!」
「俺のパーティメンバーは五人なんだよ! 一人一個しか食わねぇよ、バァカ!」
俺がおにぎりを持ってくるといつもこんな言い争いが発生する。
喧嘩にはならないが、諍いがしょっちゅう起きる。
客のほとんどが言うには、祖母ちゃんの時もそうだったが、俺の作る握り飯もかなり人気が高いらしい。
けど時々、屋根裏部屋中に怒鳴り声が響くときがある。
「お前らどけぇ! おい、もう少しだからしっかりしろ! 若ぇあんちゃんがつくった握り飯食えばいくらか元気が出るからよ! おい、コウジ! 何でもいいからこいつに食わせるのが先だ! テメェらはすっこんでろ!」
その男は、意識を失った女性を背負っている。
一目見ただけで、重傷と分かる。
その様相を見た異世界から来た人々も、事の重大さが分かったのだろう。
握り飯を取り合う喧騒が嘘のように静まり返った。
と同時に、二人の為に、場所を空けた。
「不人気だが、大昔は薬効があると言われて貴重に扱われた梅がいいんじゃないか? あと空腹感があるなら……タラコが残ってるな。油物は控えた方がいい」
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