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「ありがとよ、コウジ! ほれ、食えるか? 梅はちと酸っぱ過ぎて飲み込めんかもしれんが我慢しろ!」
トレイの上でその二つを取り分けると、そいつを抱えた男が一個を鷲掴みにして、背負ったまま、その女性の口元に持っていった。
一口、二口と齧って飲み込むと、苦しそうな顔が少し和らいだように見えた。
「寝袋持ってきてるんだが、使えるか?」
「おぉ! 助かる! 寝かせるのも手伝ってくれないか!」
さっきまで言い争いをしていた全員が、その怪我人を助けるために団結する。
怒鳴り声が行ったり来たりするのはうんざりだが、こういう空気は嫌いじゃない。
「治癒魔法は使った? 効果は?」
「いや、俺のなけなしの薬草を傷口に塗っただけだ! 毒気は薄らいだが消えちゃいない!」
「毒も食らってたの?! じゃあ私が毒消しの魔法かけたげる。私もさっき梅食べたから少しは魔力回復してるはず。いくらか効果はあるかもね」
「んじゃあたし傷口塞ぐね。終わったらしばらく安静。……この子、おじさんの連れ?」
「いや、行きずりだ。多分しんがりで仲間の逃走を助けたんじゃねぇか? 一人にしては持ち物が無駄に多かったからな」
「小さなヒーローか。命を諦める手はねぇな。骨には異常なさそうだ。俺は包帯を持ってるが、治癒魔法かけた痕を見て使えばいいか」
こんな風に時々怪我人が運び込まれ、俺の握り飯目当てに来た客たちは一斉に手際よく怪我人の介護、看護、介抱にとりかかる。
異世界ってのは一つだけじゃないらしいんだ。
いろんな世界があって、いろんな迷宮だのなんだのがあって、その一部がこの部屋に繋がってるらしいんだな。
だからこいつらも互いに面識はない。
ないはずなんだが、こんな時はつい見惚れちまう。
ため息が出る程連携が取れてるんだよ。
そして必ず怪我人に俺の作った握り飯を食わせてた。
少しでも口にした怪我人は、時間差はあったりするがみんな元気になっていった。
「コウジ。まぁお前だけじゃなくお前の祖母さんにも世話になったが、つくづくお前が握り飯作ってくれてよかったと思ってるよ」
「まったくだ。ここにお前がいなかったら死人は増える一方だったろうからな」
握り飯の作った報酬は金以外の物品だ。
けど正直言うと、食費も欲しい。
けど、こんな風に言われたら悪い気はしない。
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