未熟な冒険者のコルト

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 バッグを背中からお腹の方に移しながら、ゆっくり後ずさりしました。  慌てて逃げだすと、スライムも一気に距離を縮めてくるかもしれないと思ったから。  向こうの仲間達の気配は素早く動いているように感じました。  ひょっとしたら合流は間に合うかもしれない。  そんな希望を感じましたが、合流どころか、どんどんダンジョンの入り口の方に動いていったのです。 「え? こっちに来るんじゃないの? あ、私も急いで向こうに行けばよかったんだっけ?」  火炎魔法の系統のアイテムを取り出しながら、少しぐらい音を出してもいいからとにかくみんなの元に辿り着くことを優先しました。  そんな私の動きを把握したのか、スライムは私に襲い掛かります。  それでもアイテムをとにかくスライムに向かって投げ込み、何とかひるませます。  しかし距離は近づく一方。  なりふり構わず、スライムに背中を向けて走り出しました。  ところがです。  みんなとの距離がどんどん離れて行きます。  スライムとの距離はどんどん短くなってきました。  みんなと一緒に動いている神秘的な力は、宝物が発しているもの。  そして私はみんなの足止め役だったのか、とそこで初めて気が付きました。  だって合流地点を過ぎて、さらに入り口に向かって加速して進んでいくんですから。  置いていかれる心細さが心の中で強くなっていきました。  誰も助けに来てくれない。  私はバッグの中から、とにかく手当たり次第に攻撃に類するアイテムをスライムに向かって後ろ向きで投げつけました。  苦手と思われた火の類をも、スライムは覆って消火していきました。  恐怖におののきながら、それでも声を発するのを我慢しました。  他のスライムから襲われたら、そこでもうおしまいですから。  しかしこのまま走り続けてもやがて追いつかれてしまうのは目に見えてます。  絶望の中で、私は力が抜けていくのを感じました。  そして不安定な岩肌の地面に足を取られ、転んでしまいました。
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