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予想外に響く声。
予想外の彼女の言葉。
俺は一瞬、すべての思考が停止した。
いや。止まったのは俺の思考だけじゃなかった。
ここにいる連中の喧騒も、動作も一斉に止まった。
いや、固まったと言った方がいいか。
やる気の方向が違うんじゃね?
「は、働く? 給料なんか出せねぇぞ? つか、何突拍子もないことを言ってんだ」
こいつらにとってこの部屋は、いわば袋小路の行き止まり。
俺にだって、そっちの方へはどの世界にだって行けやしない。
つまり、ずっとここにとどまってるってことだよな?
「国に帰れ。お前にも家族はいるんだろ?」
どこかで見覚えのある言葉がつい口に出た。
でも彼女はかぶりを振った。
「私の村は自給自足の生活なんです。人口が増えすぎると生活が苦しくなるんです」
「コウジよ、この嬢ちゃんだけじゃねぇ。そんな村はあちこちにある。腕に覚えのある奴は村を出て、俺らみたいな冒険者になったり職人に弟子入りしたりするんだよ」
彼女を背負ってきた男冒険者が口を挟んできた。
まぁそっちの事情は知らないからあらゆる意味での無理強いはしない。
けどここにとどまったって何もすることはないんだがな。
「あんたが担いで連れてきたんじゃねぇか。ってこたぁ、あんたの世界の住人ってことだろ? 面倒みてやったらいいじゃねぇか」
「そうもいかねえ事情があるんだよ。てっきりチームメンバーを逃がすためにモンスター相手に立ちはだかったと思ってたんだがそうじゃねぇんだと」
この冒険者曰く、そんな役目は経験豊かな冒険者がなるものらしい。
新人とまではいかないが立ち居振る舞いで、彼女は経験の浅い冒険者だと分かったんだそうだ。
俺にはよく分からん。
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