未熟な冒険者のコルト

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 そこはちょっとしたスペースの小部屋でした。  そしてさらに奥には、もう一つ、同じような扉がありました。  しかし私はそこで力尽きました。 「このまま死んじゃうのかな……」  そう呟いたのは覚えてます。  瞼にも力が入らず、重く感じるままに目を閉じました。  遠くから「大丈夫か」という声が聞こえてきましたが、あの人達の誰かの声ではないことは分かりました。  助かった。  助かったわけじゃない。  この二つの思いを持ったまま、気を失いました。  再び目が覚めたのは、木の板に囲まれた部屋でした。  重厚そうな扉はありました。  不思議な台がその反対側に一つだけ。  そしていろんな人達がそこにいました。  口の中には、何か食べ物が入っているような感触。  そして仰向けの私を上から見おろして、喜んでいるような顔をする人達が目に入りました。 「助かった」  そんな安心を感じると同時に 「あの人達は助けてくれなかった」  そんな悲しみがうまれ、そしてダンジョンの中で感じた絶望もそのまま続いてました。  でも、スライムに襲われて「助かりっこない」という絶望ではありません。  冒険者の修練所の卒業時、チーム入会の勧誘を待っていました。  あの人達からしか、声をかけてもらえませんでした。  その人達からは、救いの手を伸ばしてもらえませんでした。  なら私は、誰からも必要とされてないのではないだろうか。  けれども私は、この不思議な部屋で、おにぎりという食べ物を持たされてました。  そんな絶望の中でも、おにぎりの味は分かりました。  温かく、しょっぱく、そして可愛い形と大きさに慰められました。  助けてくれた人は、そのおにぎりを作ってくれた人を紹介してくれました。  この人のおかげで、たくさんの冒険者達が救われているんだ、という話を聞きました。  おにぎりで助かったこの命は、何の役に立つんだろう。  そんな悩みを持ちました。  こんな小さい食べ物で、あんな苦痛がいつの間にかなくなってたことが不思議でした。  この人は、いったい何者なんだろう?  そんなことも感じました。  気が付いたら、私はその人にお願いしていました。 「こ、ここで働かせてくださいっ!」  と。
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