事情はそれぞれ

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 今日も今日とて屋根裏部屋に、重症重体の冒険者達が、自力であるいは誰かの手で運び込まれ、やってくる。  今日も今日とて屋根裏部屋に、俺は握り飯を作り、運ぶ。  連中に必要なのは処方箋でもなく薬でもなく、俺が作る握り飯。  それで元気になるってんだから変な話だ。万能薬じゃあるまいし。  そもそもいろんな異世界から冒険者がやって来ること自体変な話ではあるんだが。 「コウジさん、こっちのトレイ、中間に持っていきますね」 「おう、頼む」  俺は握り飯を待つ行列の先頭にいる。  コルトは次第に作業の要領を得たのか、トレイの一つを行列の途中に運び、その場で配る。  行列に並ぶ人たちの待ち時間を短縮させるための工夫だと言う。 「待ってる途中で具合が悪くなる人も中にはいますし、この部屋から出る時間も短くなる人もいます。受け取るまでの時間が長いと、それだけでも疲れるものなんですよ?」  コルト、お前はこの部屋の何なんだ。  黒子か? マネージャーか?  人のこたぁどうでもいい。  握り飯強奪阻止の仕事が無くなったのは楽でいいが、紙コップに水を入れて渡す作業が割と面倒。  まぁ土足の部屋だから床に水をこぼしても別に大した問題にはならないが。 「コウジさん……」 「あ? 何かあったか?」  コルトが俺の横にやって来た。  彼女の隣には、彼女の手当であるうどんを欲しがった、コボルトの子供がいた。  また何かせびって困らせてんのか? 「この子が気付いてくれたんですけど……」 「端的に話せ。そっちのトレイは全部捌けたみたいだがまだ四つ……三つのトレイに丸々握り飯残ってんだ」 「あそこのおじさんが、おにぎりいらないって言うんだ」  コルトよりも早くその子供がそんなことを言う。  そいつが指をさす先は、部屋の奥の隅で膝を抱えて座っている……男か? 「別に無理して渡さなくてもいいだろ」 「食わなきゃ死んじまうだろ?」  コルトもこいつもここに来てまだ日が浅い。  何日も食わず飲まずでこの部屋を出てった奴もいる。
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