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頭を抱えたくなってきた。
こいつの人生、それでいいのか?
はっきり言えば引きこもりだぞ?
確かに身の安全が確約されてる場所だけど、俺が出入りするふすまが見えなきゃ風呂にも入れねぇし碌な食事も出来ないぞ?
清潔を保つことが出来なくなって変な病気になっても治療できる奴は稀だ。
なんせここに来る奴は、ここに来るまでに回復の力をほとんど使いきってからここに辿り着くみたいだから。
そんな回復術があるとしたら、使っても意味のない危機に陥ったケースだけだ。
薬とかならなおさらだ。
もっとも、ここに来ることを狙って、わざとピンチになろうとする奴もいる。そんな奴らにはまだ術や薬の余裕はあるみたいだが。
「あ、あの」
「ん? どうした?」
「私が口にした食糧のお代です……」
彼女が背負ってたバッグから何かをいくつか取り出してショーケースの上に置いた。
装備や衣類同様、そのバッグもあちこちが破けている。
そんなバッグの中に、まだ物が残っているってのは驚きだ。
「今、お金はここでは使えないって聞きました。ほかに持ってる物ってばこれくらいで……」
「あぁ。ここではそっちの世界の金は使えない。俺がその金を使うことができないからな」
日本円を持ってるなら話は別だが。
もっともこっちの世界の通貨を持ってるはずもない。
で、彼女がショーケースの上に広げたのは、何かの札、色がついた石、何やら薬っぽいやつ。
この仕事を初めて五年目だ。それらは何に使われるかは大体分かる。
「これって、魔物と戦う時の道具だろ? そんなの俺がもらったって、何の役にも立ちゃしねぇ。バッグの中に戻しな」
あげる、と言うなら遠慮なくもらう。
だがそのすべてを欲しいと思ってるわけでもないし、価値がないどころかゴミにしかならない物もある。
何も持たずに来る奴もいる。
ここに来る奴に望むことは、早く元気になって、さっさとここから出て行ってもらいたいってことだけだ。
「基本的には、ここには好きなだけいられるってことくらいか。俺がいくら強制しても、ずっとここにいたい奴はずっといるし、すぐに出てく奴は出ていくもんだからな」
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