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畑中幸司は一生懸命握り飯を作る
「お待たせー、かな。半日分のおにぎり、百五十個持ってきたぜー」
俺はおにぎりを三十個載せられる五つのトレイを、一つずつその部屋に運び込んだ。
一つ目を運び込んだ途端にその部屋で待っている客……客なんだろうな。客たちは歓声を上げる。
その部屋にあるショーケースの上にそれを置く。
俺はそのあとこの部屋と一階を四往復する。
「おー!」
「待ってましたよぉ!」
「でも……、──最近足りなくない?」
無茶ぶりにもほどがある。
ここは日用品を扱う雑貨屋『畑中商店』。
食堂でもレストランでも居酒屋でもない。
そして俺はというと、この店の三代目店長であって、コックでもシェフでもない。
なのに俺は握り飯を作る。
店じゃ生鮮食品は扱ってないから、当然店の商品じゃない。
なのに、一日二回。一回百五十個ずつ。しかも毎日。
外観では平屋建てなんだが、店の天井と屋根の間に空間がある。
いわゆる屋根裏部屋ってやつだ。
作った握り飯は全てその部屋に運んでいる。
そんなにたくさんの握り飯をなぜ運ぶか。
食べる連中がいるからだ。
入れ代わり立ち代わりで、俺の握り飯を求める奴らが次から次へとやって来る。
おかしいと思うだろ?
屋根裏部屋へは一階と繋がる階段からしか入れない。
そこを通るのは俺だけなんだから。
そう。
握り飯を求める連中は人間じゃない。
彼らは、俺がよく遊んでいたゲームや愛読してた空想の物語によく出てくる、幻想世界の住人達だ。
「ふざけんな! これ一人で短時間でこんだけ作ってんだぞ? もう半分は夜食用だしよ! 毎日筋肉痛だわ! つか、お前ら、ここをお前ら行きつけの酒場代わりにしてんじゃねぇよ!」
そう。
彼らはいわゆる、異世界の冒険者達である。
流石は異世界。来訪者は人間だけではない。
エルフだのドワーフだの亜人だの、空想上の存在と思っていた存在の方が多い。
なぜ異世界と屋根裏部屋が繋がっているのか。
これは俺も不思議でならない。
ただ、彼らからの話によれば、彼らが活動する迷宮内の部屋とこことが繋がってるらしいってことくらい。
そして死んだ祖母ちゃんが元気だった頃に、握り飯を作ることを託された。
あの人達はほんとに困ってる人ばかりだから助けてあげなさい、ってな。
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