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すると高橋さんは半ば体当たりするように、「それ」を押し付けてきた
そして彼女は「お願いします」と頭を下げると、俺の返事も待たずに逃げるように図書室を出て行ってしまったのだ。
これでは突き返すこともできやしない。なんなんだ一体。はぁ。何故にあのゴリラ。何が良くてあのゴリラ。鈴木許すまじ。
しかし渡されたものを確認して、俺はふっと顔を綻ばせた。
仕方がない。まったくもって仕方がない。せいぜい鈴木は俺に感謝するがいいのだ。
何度も言うが、俺は鈴木の優しい友人である。
くしくもそれは、バレンタインデーを明日に控えた日の、放課後のことであった。
***
「…てなわけで、高橋さんからお前にはい」
「マジでっ」
声を弾ませる鈴木。俺は約束は守る男だ。ちゃんと翌日、ハート形の高橋さんからの贈り物を渡してやった。
それは-。
『督 促 状
図書室の本で未返却のものがあります。速やかに返却してください。
二月十五日までに返却されない場合は、生活指導に通達後、担当教諭からお話がありますのでご了承ください。
図書委員会』
鈴木は読むや否や机にガンーと突っ伏し、俺はニヤニヤ笑って見下ろした。
「おまえ、見た目厳ついし怖いから渡しにくかったんだろうなー。机の中にでも入れときゃいいのに真面目だよな。あ、部活のこと知ってたからかー。生指に呼び出しくらったら、反省文のうえ、一週間部活禁止だ・も・ん・なっ」
「本返すの忘れてたのはわかったよっ。でもなんでこの用紙ハート形っっ」
「俺が切った。ハッピーバレンタイン」
俺はグッと親指を立てた。
「悪意っっ」
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