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いい加減読み終わった本を返そうと窓から離れようとしたとき、同じく校庭に視線を送る女子に気が付いた。
(…………鈴木見てんのかぁ)
そう思ってしまうのは、彼女が同じクラスだったからだ。高橋さん。下の名前は知らない。小柄で黒髪。膝下スカートをきっちり守るような見るからに大人しい子だ。そして図書委員でもある彼女は、俺にとって他の女子よりは少しだけ知っている相手だった。とはいえ、貸し出しカウンターに座る彼女と事務的な会話をしただけだけれど。
しかし、逆にいえばその程度で俺がなぜ気に留めたかといえば、彼女は鈴木に幾度となく視線を送っていたからだった。まさかの鈴木。教室で彼女の鈴木を見る目はそわそわ落ち着かず、けれども話しかけようとしては口を閉ざしていた。そして鈴木が近づくとさりげなく距離をとってしまうのだ。なんだあれ、と俺がそれに気づいたのは今月ー二月にはいってからだった。当の鈴木は全く気づいていない。俺は優しい友人なので、もちろんそのことは鈴木には教えていない。
けしてどこぞの聖人が殉教した日に巻き込まれるのを危惧してではない。
「………あの」
横を通り過ぎようとしたら、高橋さんの方から声をかけられた。
「えと……鈴木くんと……仲いい、よね」
「…………………まぁ」
同じクラスだ。教室で散々見ているだろうに。無意識に口調がキツくなってしまうのは、女子耐性が低い男の性である。
「あ、あの……鈴木くん。すごく、部活…頑張ってるって聞いて、わ、わたしラグビーとか、よくわからないけど…でも、頑張ってるって、いうのは……その…わかって……」
「……………………はぁ」
「だから、応援、は、したい、ん、だ。だから…」
「…あのさ。それで俺になんの用?暇じゃないんだけど」
鈴木への賛辞なら鈴木にしてやれ。そう思ってしまった俺は悪くない。彼女も俺と同じで異性と軽く話せるタイプではないのはわかる。けれども口から出るのが鈴木の名前では塩対応になるのもいたしかたないだろう。頼むから泣いてくれるなよ、とは頭をよぎったけれど。
「……………ごっ。ごめんさっ……あ、あの………これ…………渡してほしくてっ」
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