初恋

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 空畏沢は昼間でさえ、都心より涼しい。夜ともなるとなおさらだった。寝巻きに近い薄着で出てきたことを恵美里は後悔したが、少し一人で庭にいたかった。白いテーブルと椅子があったので、その椅子に体育座りのように両脚を抱え込みながら座った。冷たい夜風が涙を乾かしていく。やや頬がひりついた。  目はしぜんと庭先の白樺の林へ向けられた。幼い頃は、あの暗闇から何かが出てきそうで苦手だった。だが十八歳になった恵美里は、林もたいして奥深くはなく、シダの茂みが切れた先はちょっとした崖になっていることも知っていた。  しかし、その林の奥で、今、何かが動いた気がする。  恵美里はそこから視線を外せなかった。  フードらしきものを頭に被った――人影。    振り返った人影のフードの下の顔は、月明かりに白く光っていた。
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