オノタキコの伝説

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オノタキコの伝説

 真優はかわいらしい見た目に似合わず、ホラー映画や怖い話が好きだった。すっかり慣れた他の五人は、 彼女の話すままにさせていた。  真優の話は思いのほか長く、あちこち前後したが、こんな内容だった。  空畏沢は戦後発展した有名な別荘地の一つである。今では旧空畏沢と呼ばれる山中に、元華族の豪奢(ごうしゃ)な別荘があった。  タキコは別荘の持ち主の一人娘で、当時一八歳だった。  幼い頃から病気がちで、特に呼吸器が弱かったこともあり、毎年春から夏にかけて両親と離れ、この別荘で静養することにしていた。  タキコは毎朝別荘の周辺を散歩するのが好きだった。朝は冷えるので、両親が英国旅行の土産に買ってきたフードつきの深紅のローブを羽織っていた。  その可憐な姿に「まるで赤ずきんのようだ」と別荘の使用人たちも目を細めた。  ある朝、考え事をしていたタキコはいつのまにか別荘の敷地を出て、下の道路を歩いていた。白く立ち込めた霧のため、一メートル先も見えない。しかし別荘周辺ならば、タキコにとっては勝手知ったる場所であった。すぐに戻れる。     
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