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最後の夏休み
「恵美里、だいじょうぶ?」
紗希の声に恵美里は顔を上げた。
心配そうな眼差しを向けられ、恵美里は首を横に振った。
夏休みの間、しばらく会わないうちに紗希の顔は少し日焼けし、ベリーショートの髪も染めたように色が抜けていた。彼女も恵美里と同じくメイクはしない。眉を整える位はするが、ほかはいじる必要がないくらい、はっきりした顔立ちなのもある。恵美里が女性的なやわらかい顔だとしたら、紗希は意志の強そうな眉頭からして、少年っぽい印象の顔だ。
「ん? まさか酔った?」
紗希と座席を背中合わせに座っている勇斗が一八〇センチの上背を折り曲げるようにして、恵美里の顔をのぞきこんできた。
勇斗は紗希よりさらに日焼けしていた。たしか休み前に合宿免許を取りに行くと聞いていたが、会ったのが今日なので、恵美里は取れたのか聞けていない。
勇斗は目が細く、心配そうに見つめられても、よく知らない者からは怖がられてしまう。やや締まりのない大きな口が気の抜けた感じでしゃべりはじめると、強面の印象が和らぐ。恵美里はもちろん彼が心配して聞いてきたのがよくわかっている。
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